東洋医学と聞いて、何を想像しますか?
漢方薬・中国医学・あんまとか答えてくれれば、何となく想像できていると分かります。
ほとんどの方は、『何なのか、分からない』とお答えいただきます。
目にしたり、聞いたりした経験がないので、答えられないのでしょう。
日本では、生まれた瞬間から医療に携ります。
子供の頃から病院や学校検診による西洋医学に施されて成長し、東洋医学に出会う瞬間が少ないので答えられないのは当然なのでしょう。
知らない人も多いので、ここでは東洋医学の中である鍼灸ついてお伝えして参ります。
三つの医学があるのでは?と考えています。
1・西洋医学(現代医学)
2・漢方(湯液)医学
3・鍼灸医学
それぞれの治療特徴はこれではないかと考えております。
●西洋医学・・・病名治療
●漢方医学・・・症状治療
●鍼灸医学・・・調整施術
それぞれを、もう少し詳しく説明して参りましょう。
➀西洋医学
最も視覚的な医学であります。
治療を行うためには病巣そのものが直接の対象となります。
その為に診断の目的は
a病巣はどこか?
bそこはどんな形をしているのか?
cそれは、どんな特徴をもっているのか?
dどうすれば治せるのか?
を追求して治療方針を立てる事になります。
治療法には、科学的治療(投薬)・手術的治療・物理的治療(放射線等)及び心理療法・食餌療法の選択になります。
特徴は一言で申し上げれば、攻撃的で排徐的です。
②漢方医学
ひたすら症状の特徴を探して、その特徴を薬物によって消して行こうとする医学です。
その際には、病位と病機を捉える事が重要視されます。
つまり病の存在位置ではなく、現在の症状が病気の経過のどのような時期に当たっているのかと言う事が重要になります。
治療法は古法派と後世派で多少異なるようですが、どちらも苦痛を除去して、なおかつ回復力を高めようとします。
③鍼灸施術
病気に対する回復力、すなわち生命力の強化を最も重要視する施術学問です。
①と②との違いは病そのもの対象としないという点です。
それ故に鍼灸施術の対象は経脈であり、そこに流れる栄血・衛気の調整を行うのが目的です。
鍼灸施術には独自の理論があり、その理論を守ることが回復を支援出来ることになり、鍼灸師の道です。
鍼灸の道に徹し、自らの役割を弁え、自らの役目を確実に果たしていく事によって周囲の方からの認知や周知はされるのでしょう。
【大道無門】とは?
正々堂々と本道を行く者が門(流派)を構える必要はないという意味です。
未だかつて『素問・霊枢』の内容に勝るものは一つも無く、つまり技術的にも理論的にも、到底及ばないのです。
鍼灸術とは、十二経絡・八奇経脈の気血の流れの調節することにより、健康の維持・増進に寄与する方法です。
調節に当たっては、陰陽五行論の法則に従い、補寫の技法を以て気血の流れの多寡を平均化させることにより、健康の回復を図る方法です。
鍼灸師の本道は、あくまでも陰陽の調和を目的としている。
技術的には難しいけれど、症状回復、再発予防の意味においても、組織の栄養補給と同時に、免疫力向上を目的とする陰陽の施術が大切であると考えてます。
東洋医学は異次元である
西洋医学と東洋医学の大きな違いは【気の存在】を認識する所にあるでしょう。
すなわち、生命体における病のエネルギーの存在そのものが、東洋医学の本質です。
そのエネルギーの存在位置を病位と言います。
気は、常に変化して流れを生じ、病気も常に変化する。
症状は変化し、病位も移動する。
このように病位が変化して移動することを伝変と言います。
そして発病から治癒までの一連の変化を、流れと捉えて病機と言います。
病機は生命体のエネルギー変化であり、経脈と絡脈が関わり、その流れの調節を目的にしているのが鍼灸術です。
鍼灸術のすべては身体が教えてくれる
鍼灸師の仕事は、病体の望む通りの事をすればいいのです。
初学者の中には『難しい』『分からない』と言う方もいますが、観察が充分でないと言う事です。
例えば、冷えた身体なら温めれば良いですし、暑すぎるなら涼しくすれば良い、全身的な状態なら誰でも分かる事です。それが、全身的でなく、その不均衡になったときに何らかの症状が現れるだけなのです。その不均衡を【虚実】と言います。
鍼灸理論は実に明解、シンプルなものです。
ただ、その状態を観察するのが難しいだけです。
その観察力を持たない方々が増えて、何が本当の鍼灸か分からなくなっている鍼灸師が増えている、現代の鍼灸業界です。
原点に立ち返り、陰陽五行論は古代人が考え出したパスワードである点を理解して望みましょう。
鍼灸師になれたのに、その理論が信じられないとしたら、最大の不幸です。
世の中には自分の知らない事は山ほどあり、自分の知識と思考力で解決しようと言う考え方では、何より自分自身にとって損になるだけです。
浅薄な気持ちで理論を組み立てたことろで、所詮【黄帝内経】の実績に勝るはずがないのです。
それより先人の叡智を利用する方がはるかに賢い生き方であろうと考えます。
鍼灸術を深める・極める
鍼灸術には、二千年以上前の中国の人たちが失敗や成功を繰り返しながら、一つ一つ発見してきたのである。
そのおかげで現代人は古典の恩恵を享受でき、実績を上げる事が出来るのである。
古人の行ってきた試行錯誤を延々と繰り返す人も少なくないです。『●●流』『●●会方式』を唱える人たちは自ら鍼灸術の可能性を小さくしているようです。
鍼灸術を行うためには、気の変化を捉える【感性】が必要です。
感性は自ら磨いて作り上げるものです。
補寫の技術とともに、感性を磨く事が鍼灸師の重要な使命の一つであると考えてます。
要するに、言葉で言わなくても患者さんの苦痛を理解できる能力であったり、脈診で分かるのは理想ですが、頚部の緊張、背部の緊張、足部の冷たさなど、どの部分の変化でもいいから、それを見て患者さんの苦痛を察知できる能力を身に付けなければならない。
その具体的な方法は活字にまとめる事ができないので、術者一人一人の努力に委ねる他にない。
【鍼灸界の発展】【資質の向上】とか、言葉を並べるのは簡単だが、それを実現するためには術者自身の日頃の努力に期待する以外にはないですね。
よって、臨床家の勉強と努力に終わりはないでしょう。中国四千年の伝統を学ぶためには、いち鍼灸師の人生だけでは、余りにも短すぎるでしょう。
人生に終わりがあっても、鍼灸医学に終わりはないでしょう。次の世代を担う人たちに、一層の発展を期待する次第です。